皮膚科の外来には薄毛を主訴とする患者さんが連日訪れますがその中には客観的に見れば決して薄毛とは言えないレベルであるにもかかわらず「髪が薄くなった」「もう終わりだ」と深く思い詰めてしまっているケースが驚くほど多く見受けられます。このような「薄毛ノイローゼ」とも呼べる状態にある患者さんの頭皮をマイクロスコープで観察すると過度なストレスによって頭皮が赤く炎症を起こしていたり極度の緊張で頭皮が板のように硬くなっていたりすることが多くこれは精神的な不安が身体的な症状として現れている証拠に他なりません。人間は強いストレスを感じると亜鉛やビタミンCといった髪の成長に不可欠な栄養素を大量に消費して抗ストレスホルモンを作り出そうとするため食事から十分な栄養を摂っているつもりでも髪に回るはずの栄養が枯渇してしまい結果として髪が細く弱くなってしまうのです。また気にしすぎによる慢性的な不安は睡眠障害を引き起こしやすく髪の成長ゴールデンタイムである睡眠中の成長ホルモン分泌を阻害するため寝ている間に髪が育つどころかダメージが蓄積されていくという最悪のシナリオをたどることになります。治療において最も重要なのは薬を処方すること以上に患者さんの認知の修正を行うことであり「今の状態は決して悲観するようなものではない」という客観的な事実を伝え過剰な不安を取り除くカウンセリング的なアプローチが奏功することも少なくありません。実際に「もう気にしても仕方がない」と開き直ったり趣味に没頭して髪のことを忘れる時間を持ったりするようになった途端に治療効果が出始める患者さんは数多く存在しこれはストレスというブレーキが外れたことで身体本来の治癒力や回復力が正常に機能し始めた結果と言えるでしょう。したがって薄毛対策においては育毛剤や内服薬といったハード面のアプローチと並行してストレスマネジメントや認知行動療法的なソフト面のアプローチを取り入れることが現代医学における最も合理的かつ効果的な戦略なのです。