日本人が薄毛になるメカニズムを分子レベルで解析すると、欧米人とは異なるアジア人特有の遺伝的傾向が見えてきますが、それは単に「ハゲやすい遺伝子がある」という単純な話ではなく、髪質や頭皮の性質と環境要因が複雑に絡み合った結果であることが分かります。まず日本人の髪の毛の断面はほぼ真円に近く太くて硬いのが特徴ですが、密度に関しては欧米人に比べて低いというデータがあり、欧米人が平均して約十万本以上の髪を持っているのに対し日本人は約九万本から十万本程度と元々の本数が少ない傾向にあります。これは一本一本が太いため全体のボリュームとしては変わらないのですが、一度抜け毛が始まると本数の少なさが仇となり、早い段階で地肌の露出が目立ち始めるというリスクを孕んでいます。またAGAの発症に関わる遺伝子領域の研究において、日本人は男性ホルモンの受容体(アンドロゲンレセプター)の感受性を決定する遺伝子配列(CAGリピート)が短く、感度が高い人の割合が多いという報告もあり、これは少量の男性ホルモンでも脱毛スイッチが入りやすい体質であることを示唆しています。さらに日本人は欧米人に比べて頭皮の皮脂分泌量が比較的多い傾向にあり、湿度の高い日本の気候と相まって頭皮環境が悪化しやすいという地理的・遺伝的なハンディキャップも抱えています。しかし一方で、欧米人で一般的な「全頭ハゲ」に至るケースは日本人には比較的少なく、側頭部や後頭部の髪は太くしっかりと残る傾向が強いため、自毛植毛などの治療においては良質なドナーを確保しやすいというメリットもあります。また興味深いことに、縄文人の遺伝子を濃く受け継いでいるとされる体毛の濃いタイプの日本人と、弥生人の遺伝子を受け継ぐ体毛の薄いタイプの日本人では薄毛の進行パターンに違いがあるとも言われており、日本人の薄毛と一口に言ってもそのルーツは多様です。遺伝子は変えることのできない設計図ですが、それが全てを決定するわけではなく、日本人の遺伝的弱点を知った上でそれを補うようなケア、例えば皮脂コントロールを重視したシャンプー選びや血行促進マッサージなどを的確に行うことで、遺伝子の発現を遅らせたり影響を最小限に抑えたりすることは十分に可能です。私たちは自分のDNAを恨むのではなく、その特性を正しく理解し付き合っていく知恵を持つべきなのです。